新人教育OJTに潜む落とし穴と実施のポイント | 新入社員研修

2016年3月25日(金)

2023年3月3日(金)

新人教育OJTに潜む落とし穴と実施のポイント | 新入社員研修

人の教育は大変難しい分野であると同時に、それはまるで宝を見つけたり、才能を育てたりするのと同様の価値ある楽しみな作業でもあります。スポーツの世界でも、芸術の世界でも後輩を育てるのは先輩の努めでもあり、名誉でもあります。私たちのほとんどは、そのようなプロスポーツや芸術の分野で生計を立てているわけではないと思いますが、企業で人を教える、特に新人社員を教育する機会はチャレンジであると同時に、取り組みがいのある仕事となっています。

新人教育の分野でよく「OJT」という言葉を耳にすることがあると思います。なんとなくイメージで理解している人が多いと思いますが、これはOn the job trainingの略で、簡単に言うと机上の研修ではなく、実際に仕事をこなしながら学んでもらうトレーニングのことです。

新人教育の面で有用とされるこのOJTですが、どんなポイントに気をつけて実施することによって、会社にとっての重要な戦力を育てあげることができるでしょうか。

そもそもOJTとは

OJTとは、On the job trainingの略で、実際に現場で仕事をしながら先輩社員などから教育を受ける人材育成の方法です。多くの企業で採用されています。

実務に役立つ具体的かつ実践的なノウハウが身に付く、習熟度に合わせた教育ができる、教育を担当する先輩社員や現場の社員たちとの人間関係を築くことができるといったメリットがあります。

しかし実践的なスキルを習得するのに向いている反面、座学のように知識を体系的に学ぶのには向いていません。また学習内容や習得度が教育者の資質に左右される面もあります。

OJT・座学それぞれの長所を活かしつつ短所を補うため、新人の教育には両者を組み合わせるのが一般的です。座学で体系的に知識を学ばせたあとにOJTで実践させ、その流れによって知識やスキルの定着を計る育成が多くの企業で行われています。

OJTの基本の手順

OJTでスキルを教えていく場合、次の手順で行うのが基本です。

  1. やって見せる
  2. 解説する
  3. やらせてみる
  4. 評価する

それぞれの手順について、具体的に解説していきます。

OJTの手順➀ やって見せる

まず初めに、教育担当者がお手本として新入社員に仕事をやって見せます。作業の全体像を示し、具体的なイメージを持たせます。言葉だけで理解できるなら一番かもしれませんが、伝わり切らなかったり誤解されてしまう可能性もあります。実際の動作を見ることで、直感的に把握することが可能です。

内容によっては、通常のようにやるだけでなくゆっくりやって見せることも効果的です。

OJTの手順② 解説する

次に、作業のポイントとなる部分や注意点について解説します。見ただけでは気付かなかったことも、解説をプラスすることで理解することができます。言葉だけで理解することは難しいですが、実際に見た後に説明を聞くことは効果的です。注意すべき点に意識の焦点を合わせることができるようになります。

疑問点の質問に答えてあげたり、逆に質問して自分で考えさせたりするとより理解が深まります。

OJTの手順③ 解説する

次に、実際にやらせてみます。初めてのときはもちろん、慣れるまではそばについていて見てあげます。見るのとやるのとでは違うため、本人は理解したつもりでもできないことが多いでしょう。いきなりできることはないのが当たり前と思い、失敗しても責めてはいけません。練習しながら体得していくものと心得ましょう。

なおこの「やらせてみる」と次の「評価する」がいい加減だと、「放置された」と受け取られる可能性が高まります。

OJTの手順④ 評価する

最後に、やらせてみた内容について評価します。改善点を伝えることが前向きな姿勢と思いがちですが、それだけでは不十分です。よかった点・継続すべき点にも必ず触れるようにし、改善点もどうやったら改善できるか解決方法とセットで伝えます。

このとき、事前に「どこまでの完成度を求めるのか」を決めておく必要があります。いきなり完全を求めてしまうと相手のモチベーションが下がってしまいます。

OJTの落とし穴―失敗の原因

OJT自体は有効な育成方法ですが、ポイントを押さえて行わないと失敗してしまうこととなります。次に、OJTが失敗してしまう原因について解説します。以下の点が挙げられます。

  • 現場任せで仕組み化できていない
  • 担当者への教育不足
  • 担当者の資質、トレーニーとの相性
  • 研修全体の設計ミス

それぞれについて具体的に見ていきましょう。

原因|現場任せで仕組み化できていない

多く見られる原因として、現場任せになっていて仕組み化できていない、全社的な取り組みにできていないということが挙げられます。現場任せだと教育内容や質にバラつきが出てしまいます。

担当者や現場の業務量を調節しないと、現場が多忙なあまり教育に対応できないことが起こります。そのような場合は新入社員を放置してしまうこととなってしまいます。そのほか作業マニュアルなどが準備されていない場合、作業の標準化ができません。担当者によって説明内容が違うということが起こりえます。また研修のゴールが明確でないと、何をどこまで教えたらいいのか現場はわかりません。

研修の仕組みを作り、方針を明確にしておくことで教育する側にも一貫性が生まれます。一貫性のある教育のもとなら、新入社員は困惑することなく学ぶことができます。

原因|担当者への教育不足

仕組み化とも関わりますが、担当者への教育不足も非常に多く見られる失敗の原因です。OJTのデメリットの1つが、一貫性ともかかわりますが担当者によって研修の内容や質にバラつきがあることです。どの新入社員も研修後には最低ラインを超えさせる必要があります。教育不足はそれを阻害する原因となります。

研修の前には担当者に教育を行うことが必要です。感情的にならない、できないことを受け止めるといった心構えにはじまり、コーチングやティーチングなどのスキルも教育しておくことが望まれます。

また教育内容も標準化する必要があります。「建前・事務方と、現実・現場は違う」というような考えを持っていると教育の内容にブレが生まれます。教育の意図や背景、会社の方針なども理解させておかなければなりません。

原因|担当者の資質、トレーニーとの相性

担当者の資質やトレーニーとの相性によって失敗に至るケースもあります。

担当者の資質としては、まず業務を間違いなくこなすレベルであることが最低限必要です。いくらコミュニケーション力があっても、業務遂行能力が低ければ適任とは言えません。また、業務ができたとしても、感情的になりやすい、説明がうまくできない、コミュニケーションが苦手といった場合は研修を任せるのは難しいでしょう。

また担当者だけの問題でなく、教育を受ける側のトレーニーにも問題があったり担当者とトレーニーの相性が悪かったりしてうまく行かなくなるケースもあります。相性は事前に情報を集めておき検討しましょう。またトレーニーにも研修前に意識づけを行っておくことが必要です。

原因|研修全体の設計ミス

研修全体の設計が適切でない場合も研修が失敗してしまいます。たとえば効率のよい習得のためには、基礎的な知識を座学で学習してからOJTで実践を積みながら定着させるのが定番の方法です。しかしその順番が逆だったり、期間が短すぎたり長すぎたりすると理解度やモチベーションに悪影響となり研修の効果が下がってしまいます。

研修の設計はその年度の新入社員の傾向で変えた方がよい場合もありますし、前年の反省を受けて違う方法を試してみる場合もあるでしょう。そういった場合、新しい方法を試してみたらうまく行かなかったという結果になるかもしれません。やむを得ない部分もありますが、PDCAを回していく中でノウハウを蓄積していきましょう。

OJTで習得させたい能力・得たい効果

OJTで習得させたい能力や得たい効果についてまとめます。次の内容が挙げられます。

  • 基本的なスキル・知識
  • 問題を解決する力
  • 人間関係の構築

1つずつ具体的に見ていきましょう。

能力・効果|基本的なスキル・知識

まず最低限習得させたいこととして、業務を行う上での基本的なスキルや知識があります。OJTの第一の目的は、効率的に短期間で新入社員を即戦力化することです。そのためには、自立して業務に当たることができる基本スキルや知識は必須です。1人でできるようになると新入社員の自信にもつながり、モチベーションも高まります。

さらにOJTの強みとして、より実践的な知識やスキルを習得できることがあります。最低限のスキルに加えて、コツやノウハウのような内容も教えることができれば理想的です。

能力・効果|問題を解決する力

机上の勉強の時とは違い、実際の仕事の場では色々な問題や疑問が起こってくるものです。さらに、自分自身のミスから派生した難しい状況なども生じるかもしれません。新人教育の面で重要なのはミスをしないように教えることよりも、その都度問題を解決してゆけるように教育することです。

最初からミスをあまりに恐れるようにプレッシャーを与えてしまうと、結果としてミスを犯すようになり、思考力を働かせて仕事をするよう育てることが難しくなります。

能力・効果|人間関係の構築

知識の欠如や作業や判断のミスがあった時ほど、OJTの教育を生きたものにする良い機会です。なにかしらの問題がおきたとき、人と人との関係はマイナスにもプラスにも変化します。OJTで学んでいる新人社員は、これから長きに渡り同僚となる人材であることを思い起こしましょう。それでOJTの段階でよくコミュニケーションを取り、問題やミスが発生したときにも信頼して相談してもらえる関係を作り上げることが大切です。

OJTで効率よく習得させるコツ

次に、OJTで効率よく習得させるコツについてまとめます。以下の点が挙げられます。

  • 最初の段階で何を理解しているか把握する
  • 基本的な知識やルールを実践で役立てる
  • 成長を確認する
  • 担当者を教育しておく

1つずつ具体的に見ていきましょう。

習得させるコツ|最初の段階で何を理解しているか把握する

OJTが始まるまでに、新人 社員はすでに多くのことを学んでいることが多いです。机上の研修を先行してきっちりおこなう企業も多いですし、その仕事に関してなんらかの知識がある程度入っている状態で、OJTに臨むケースがほとんどでしょう。

しかし、OJTが始まった時点で、これからやる仕事のことをどれほど理解できているかは人によってかなり差があるでしょう。そのため、新人教育にあたる人はその人がOJTの最初の段階で何を理解しているのか、また理解できていないのかを少し洞察する必要があります。それをしなければ、OJTは進んでいるのに当人の理解度がついてきていないという結果になりかねません。

習得させるコツ|基本的な知識やルールを実践で役立てる

OJTが始まる段階で、色々とすでに学んでいることを簡単に復習している新人社員も多いかもしれません。しかし、実際に仕事の場でOJTが開始されると、知っている知識と現場の作業がまだうまく結びつかないということが往々にしてあります。これは不思議なことではなく、誰でも最初はそうだったはずです。

そのため、すでに取り入れた基本的な知識やルールを、実際の仕事の現場で当てはめられるように上手にフォローする必要があります。多くの場合、思い起こさせること、反復させること、焦らないように安心させることによってOJTの初期の段階はスムーズに進んでゆくはずです。

習得させるコツ|成長を確認する

OJTの目的は、なんとなく現場に慣れてもらうことではありません。知識面、技術面、コミュニケーションの面でしっかりと仕事を遂行していける人間に教育することが目的です。OJTの最中にただ単に設定されている事柄をこなしていく、あるいはOJTのために定められた時間を消化していくだけでなく、その新人社員の成長を確認するように意識しましょう。どんな点が変わりましたか?最初の段階と比べてどんな面で成長が見られるでしょうか?こうした点を見るためには、教える側が純粋な関心を新人社員に対して抱いている必要があります。

こうして見てみますと、OJTは限られた時間の中でやるべきことがたくさん詰まっていることが理解できます。しかし、この集中すべき期間を有効に使えるならば、OJT終了後早い段階でその新人社員は即戦力として現場で活躍することが期待できるかもしれません。OJTが終了したにも関わらず、著しい知識の欠如やパフォーマンスの低さを見せる場合、必ずしも当人の力不足が問題とは限りません。教える側のOJTへの取り組み方がマンネリ化していると、当初の目的が達成されずに時間が過ぎてゆく恐れがあるのです。

習得させるコツ|担当者を教育しておく

すでに述べたことにもつながりますが、担当者を教育しておくことも成功のコツです。

OJTをはじめ新入社員研修の目的は、新入社員が自立して業務ができるようにすることです。その際にどの社員も最低限のレベルをクリアして同じ水準で業務ができるようになると、それ以降の教育も楽になります。また経験を積むにつれ、会社へのさらなる貢献も期待できます。

そのためには新入社員教育の内容と質を揃える必要があります。「何をどこまで教えるか」という内容に加えて、「どのように教えるか」という効果的なスキルを身に付けてから教育を担当させると、教育の結果にもプラスです。OJTは教育の専門家ではない一般社員が教育を行うため、最低限の教育スキルを習得させておくことが必要です。

新入社員を育てるはずのOJTが辞める原因になってしまっては本末転倒です。効果的な教育を行うためにも、まずは担当者を教育しましょう。

OJT担当に向いている人の特長

次に、OJT担当に向いている人の特徴についてまとめます。次の特長が挙げられます。

  • 成長可能性を信じられる
  • ほめるのが上手である
  • 公平・冷静・客観的である
  • 分析力がある
  • 自分で気づかせることができる

1つずつ見ていきましょう。

特長|成長可能性を信じられる

所有スキルというより性格に近いことですが、相手の成長可能性を信じられる人は担当に向いています。

期待されていると感じている人はモチベーションが上がります。その結果学習の効果が高まります。これは教育の現場で言われてきたことで、心理学用語で「ピグマリオン効果」と言います。企業の研修でも同じ効果が得られると言われています。

期待を受けることは相手への信頼感につながります。また「自分にもできるはず」という前向きな姿勢になるでしょう。教育者も相手ができると思っていれば励まします。これらがよい相乗効果を生みます。

逆に期待されていない、見込みがないと思われていると感じると、結果もその通りになってしまいます。これを「ゴーレム効果」と言います。いくら教育の仕組みを整えても、効果を最大化することができません。成長を信じる気持ちが教育には大切です。

特長|ほめるのが上手である

ほめるのが上手なことも担当者向きの資質の1つです。ほめることは育成において効果的な方法です。ほめることはモチベーションを高め、次に挑戦しようという気持ちを育てます。

ただし「上手」なほめ方が大切です。できるようになった点・よくできる点をほめることはいいのですが、能力よりもその結果に至る努力やプロセスを中心にほめるようにましょう。

現在から今後10年ほど新入社員となる世代「Z世代」は、「できている点をほめてもらいたい」という傾向があります。そのため、とくに新入社員をほめるという指導が効果的になると言えます。

特長|公平・冷静・客観的である

また、ほかの人に対して公平・冷静・客観的であるということも重要です。育成に限らず、人と接するときにこれらの要素は信頼関係を築くうえで必須だと言えます。

公平さがないと、教育を受けている新入社員は不公平に扱われたと感じてしまう可能性があります。また冷静さがなく感情的だと、相手は怒られるかもしれないと不安になり安心して作業をすることができません。客観的でないと指導や評価が的外れになってしまいます。

とくに新入社員は学生時代からは大きく変化した環境の中にあり、仕事もまだ不慣れな状態です。相手がそのような状態でいるときには、正当に扱われていないと感じさせることは悪影響を与えます。そうならないよう配慮できる人は教育に向いています。

特長|分析力がある

分析力があることもOJTに向く資質だと言えます。新入社員にアドバイスするときや評価を行うときには、どこに問題があるのかを正確に見抜くことが必要です。またその問題は何が原因となっていて、どのように解決するかを整理して考えなくてはいけません。

そういった場面で、分析力があることは役立ちます。適切なアドバイスと適切な評価を与えることができ、効率よく成長を促すことができます。

業務上の分析力は実務経験を重ねるうちに養うことができます。その点からも、実務の能力があることは担当者の最低条件だと言えるでしょう。また分析力はふだんからわからないことについて考える姿勢があると鍛えることができます。気づきの多い社員は担当者向きだと言えるでしょう。

特長|自分で気づかせることができる

自分で気づかせることができる能力も担当者として役立ちます。新入社員を自立した社員へと育て上げるためには、業務を体得させることが大切です。そのプロセスでは、答えを与えて頭で理解させるだけでは足りないことがあります。

答えを与えるのではなく、自分で気づかせる、自分で見つけさせることが大切です。自分で気づいたことは深く納得できて忘れません。自信にもつながります。

自分で気づかせるためには、待つ力と尋ねる力が必要です。担当者は自分が答えを知っていても、相手が自力で見つけるまで待たなくてはいけません。また時には見つけるのをそれとなく促すために適切な質問を行う必要もあるでしょう。

まとめ

OJTを担当した先輩や上司と、その新人社員がその後も特別親しい関係になっていくのはよく見られる光景です。このように、OJTは知識や技術だけでなく職場で最も大切とも言える人間同士の信頼を築くものとなります。

組まれたカリキュラムをただこなすという状態に陥ると、OJTで与えるべき教育が行き届かないという落とし穴がありますので、くれぐれも一人ずつの人間と向き合って、良い成果を得られるように取り組んでゆきましょう。



この記事の監修者

株式会社 社員教育研究所 編集部

株式会社社員教育研究所 編集部

1967年に設立した老舗の社員研修会社。自社で研修施設も保有し、新入社員から経営者まで50年以上教育を行ってきた実績がある。30万以上の修了生を輩出している管理者養成基礎コースは2021年3月に1000期を迎え、今もなお愛され続けている。この他にも様々なお客様からのご要望にお応えできるよう、オンライン研修やカスタマイズ研修、英会話、子供の教育など様々な形で研修を展開している。

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