ラインケア研修とは?メンタルヘルス対策の重要性や職場環境への効果
2022年6月7日(火)
2023年6月28日(水)
メンタルヘルスの不調は社会問題としても取り上げられるほど、現代人における大きな問題です。そして、会社にとっては早期発見・対処が必要な課題とも捉えられています。ラインケア研修では、部下のメンタルヘルス不調に関わる兆候を把握し、適切に対応するための方法を学べます。社員の離職といった事態を避けるためにも、ぜひご活用ください。こちらでは、ラインケア研修の概要や研修内容、重要性や効果について解説します。
ラインケア研修とは
事務所の管理監督者が、メンタルヘルスに関する問題や対応方法について学習することを、ラインケア研修と言います。そもそもラインケアとは、事業場内で上司やマネージャーなどが社員の心身の不調を早期発見し、安心しながら仕事に取り組める体制を面談や指導などを通して作っていく取り組みのことです。研修を受講することは、そのための知識・技能を身につけることにより、職場環境改善につながります。
ラインケア研修は義務?
ラインケア研修そのものは法律で義務化されているわけではありません。しかし法律で定められている企業の義務を果たすために、ラインケア研修は役立ちます。
労働契約法第5条には、以下の条文が定められています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
労働契約法(厚生労働省)
このように、大前提として会社は、社員が会社で安心して健康に働けるよう配慮する安全配慮義務を負っています。たとえば、仕事中のケガや事故を防止するために事務所内設備の安全点検を行ったり、危険な作業がある場合には安全性確保に最大限努めたりしなくてはなりません。
加えて、メンタル面の不調を防ぐことも安全配慮義務に含まれます。必要に応じて就業場所を変更する、作業を転換するといった、適切な措置を講じることが求められるため、社員の健康状況を把握しなくてはなりません。そのためには、メンタルヘルスに不調を来す兆候などを見分けることが重要です。
そしてこういった安全配慮義務を果たすために、ラインケア研修が役立ちます。ラインケア研修そのものは義務ではなくとも、義務を果たすための手段の1つだと言えるでしょう。
ラインケア研修の研修内容
ラインケア研修では、ラインケアに関する基礎知識から、社内の環境改善に関する効果的で具体的な方法を学びます。たとえば、部下の不調をいち早く把握するためのポイントや、休職している人に対する支援方法などが該当します。具体的には、次の内容が挙げられます。
- メンタルヘルスの基礎知識
- ストレスやメンタル不調への理解
- 部下のメンタルの変化に気づく方法
- 休職した部下の復職への支援
- 職場の環境づくり
受講することでラインケアの目的や効果についても理解が深まります。管理職がラインケアの重要性をしっかりと把握し実行に移すことは、会社全体のラインケアの取り組み強化につながるだけでなく、傾聴力の向上、声掛けの大切さを知ることができます。その意味でも、体系的に学びが得られるラインケア研修は有益かつ効率的です。
では、個々の内容について1つずつ見ていきましょう。
メンタルヘルスの基礎知識
1つめの内容として、メンタルヘルスの基礎知識が挙げられます。研修の初めにこの内容を学ぶことも多いでしょう。企業におけるメンタルヘルスの現状を調査結果をもとに学んだり、企業としてメンタルヘルスの対策に取り組む意義を学んだりします。さらにはラインケアとは何かという定義についても触れるのが一般的です。
場合によっては労災の事例などが紹介されることもあり、より明確に企業としての対策の必要性を認識することができます。
ストレスやメンタル不調への理解
さらに、ストレスやメンタル不調そのものについての理解を深めます。ラインケアを行っていくにあたっては、ストレスやメンタル不調とはどのようなものなのか理解が不可欠です。そこでストレスの原因やメンタル不調がどのような形で現れるかについて学びます。そのほかうつ病など精神疾患の基礎知識についても学び、誤解されがちな点を正しく理解していきます。
管理職として部下のメンタルのサポートをしていくために必須の内容だと言えるでしょう。
部下のメンタルの変化に気づく方法
さらに、部下のメンタルの変化に気づく方法について学びます。ラインケアは部下の不調にいち早く気づいて対処することです。そのため、メンタル不調のシグナルやサインを見逃さないことが必要となります。どのようなシグナルがあるのか、シグナルに気づいたときや部下から相談を受けたときにどのように対処するかを学びます。
問題発生の初期にどのように対処するかによって、そのあとどう進展するかが変わります。適切に対処できれば事態の深刻化を防ぐことが可能です。その対処を学ぶという意味からも、演習形式も多く取り入れられる内容となります。
休職した部下の復職への支援
部下が休職した場合のさまざまな対応についても学びます。具体的には、休職する際の対応や休職から復職までの流れ、復職する際の支援のやり方や復職後のサポートなどです。そのほか個人情報の保護についても学びます。部下の健康状態も個人情報であり、部下の意思や希望も尊重する必要があるからです。
初期の対応と同じく、復職後の対応も適切に行わないとかえって事態が悪化する可能性があります。そのため正しいサポートができるようになるための知識を身に付けます。
職場の環境づくり
そもそも不調になる社員を出さないような職場づくりのため、予防策として日常的に注意すべき点についても学びます。具体的には、部下との間に相談しやすい関係を構築するための日常的なコミュニケーションの取り方や、相談の仕組みづくりについての内容などが挙げられます。
また、上司が部下のストレスの原因となっては本末転倒です。そうならないためにハラスメントについての注意点に触れることもあります。
ラインケアやメンタルヘルスが重要視される理由
次に、ラインケアやメンタルヘルスが重要視される理由について解説します。具体的には以下の理由が挙げられます。
- 安全配慮義務の遵守につながるため
- 社員のパフォーマンスに影響するため
- 社員の離職に関わるため
- 企業のイメージダウンの予防・アピールにもつながるため
1つずつ見ていきましょう。
安全配慮義務の遵守につながるため
そもそもラインケアやメンタルヘルスの問題の対策に取り組んでいること自体が、安全配慮義務を遵守することにつながります。すでに述べたように、企業には労働契約法で安全配慮義務が定められています。義務を遵守するにはいろいろな方法がありますが、ラインケアやメンタルヘルス問題への取り組みはその手段の1つとなります。
労働契約法には、安全配慮義務を守らなかった場合の罰則は定められていません。しかし問題が発生した場合、損害賠償を求められる可能性があります。そういったリスクを避けるためにも、ラインケアなどの取り組みは役立ちます。
なお個人情報との兼ね合いもありますが、業務に支障を来している場合は労働者は健康管理に協力する義務があります。相手の理解を得ながら協力を求めましょう。
社員のパフォーマンスに影響するため
心身の健康は、仕事のパフォーマンスに直結する問題です。とくにメンタル面の不調は脳機能の低下をもたらし、集中力や判断力の鈍化につながるとも言われます。
たとえば、考えがまとまりにくく、堂々巡りばかりして判断ができなくなるような状況を想定してみましょう。ビジネスにおいて、物事を正しく認識しジャッジしなくてはならない場面は日常的に訪れます。これをいかにスピーディーに処理できるかは、本人の仕事の効率、ひいてはチームの成果にもつながる重要なポイントです。
メンタルに不調を来した状態では、その判断に多大な時間がかかります。また、判断のための思考時間には多くのストレスがかかりますから、心身に疲れがたまります。加えて、上司や同僚からの目が気になりはじめると、不安が大きくなり働くこと自体が大きな苦痛になるのです。
こうした負のスパイラルに陥れば、仕事のパフォーマンスは当然低下するでしょう。メンバーが通常どおり活躍できなければ、その負担はメンバーにも及びます。結果として、会社全体、従業員全体にまで悪影響を及ぼす可能性があるのです。
社員の離職に関わるため
メンタルヘルスの不調は、うつ病や睡眠障害といった病気を引き起こすことがあります。重症ともなると、長期的な療養が必要になり、離職もやむなしといったケースも考えられるでしょう。
会社にとって、社員の離職は大きなマイナス要因です。とくに、その社員が優秀であればあるほど補填は難しく、新たな人員補充などにも時間・コストがかかり、組織のマネジメントに大きな影響を与えます。そしてそれ以上に、安全配慮義務を怠った結果、離職者を出してしまったということ自体が大きな問題にもなりかねません。
メンタルの不調は事前に察知できるケースも少なくありません。上司やマネージャーが部下の不調に気づけるよう、ラインケアを踏まえたコミュニケーションや対応が求められます。
企業のイメージダウンの予防・アピールにもつながるため
メンタルヘルスの問題への取り組みは、企業のイメージダウンを予防したりアピールしたりすることにつながります。安全配慮義務を果たす取り組みを行っているということは、法律を遵守している企業だということを示すからです。
また実際にメンタル不調に取り組むことで、訴訟のリスクを減らすことが可能になります。仮に不調になってしまった社員が出てしまった場合も、対策に取り組んでいたという事実はイメージダウンを防ぐ理由となります。ひいては、取り組みを行っていることが「社員を大切にしている企業」というアピールにもつながるでしょう。
このようにラインケアの取り組みは企業イメージにとってプラスに働きます。
ラインケア研修でもたらされる効果
ラインケア研修でもたらされる効果としては、次の3つが挙げられます。
- 職場環境の改善を推進できる
- 部下の不調を早期発見しやすくなる
- 管理職のセルフケアを促せる
1つずつ見ていきましょう。
職場環境の改善を推進できる
上司やマネージャーがラインケアの知識やスキルを身に着けることは、職場づくりにも役立ちます。ラインケア研修では、同僚や部下のメンタル不調の兆候を掴み、不調を見分ける方法などを学びます。また、部下からの相談へ対応したり、メンタル不調の部下が職場復帰するためにサポートしたりといった対応についても習得します。
こうした取り組みについて知ることは、単にストレス要因を事前に把握するだけでなく、リーダーとしてのコミュニケーション能力向上にもつながるでしょう。活発な交流は、職場内の良好な人間関係の構築や、業務改善といった効果が期待できます。また、リーダーシップが発揮されることで、メンバーのモチベーションを向上できます。
このように、職場環境の改善は安全配慮義務を果たすだけでなく、組織全体のパフォーマンスを高める結果をもたらします。最終的には、会社の売上や利益にもつながる重要な取り組みにもなり得るでしょう。
部下の不調を早期発見しやすくなる
メンタルケアの不調は、早急な発見が肝心です。その上で、適切な対処を行うことが求められます。
健康上の問題の発生は、社員の離職にもつながります。優秀なメンバーが会社から去る状況は、大きな損失とも言えるでしょう。もちろん、義務である安全配慮が果たされていないこと自体、会社としては避けなくてはなりません。
ラインケア研修で得た知識・スキルを活用すると、メンタル不調の兆候に気付き、適切な判断が行えるようになります。加えて、不調者の相談対応や必要なケアを提供・対応することにつながります。不調者の早期発見ができれば、離職といった事態の予防、防止にもつながるでしょう。
なお、メンタルヘルスの不調は放置することで状況の悪化を招きます。本人にとって辛い時間が続くことはもちろんですが、負担は周囲のメンバーにも及ぶでしょう。できる限り早めに対処するためには、ラインケアの取り組みが欠かせません。
管理職のセルフケアを促せる
ラインケアが求められるのは、部下だけではありません。実は上司やマネージャーのような管理職にこそ、正しい知識を身につけた上でのセルフケアが必要です。
一般的に、管理職には多くの仕事が集まる傾向にあります。さらに、過密なスケジュールをこなすなかで、人間関係の調整などにも気を揉まなくてはなりません。こうした状況では、ストレスを溜めないこと自体が難しいとも言えるでしょう。実際に、管理職がメンタルヘルス不調に陥る事例は少なくありません。
ラインケア研修で得た知識やスキルは、メンバー向けだけでなく、管理職向けの一面もあります。自分のメンタルヘルス異常の兆候に気がつくことは、その状況を抜け出すための第一歩です。また、不調が起こった際の対応方法を知っていれば、適切な行動を取れるようになります。何より、自分の心身が不健康であると自覚したとき、何をすれば良いのかが分かっていることは、大きな安心感につながるはずです。
ラインケア研修の形態
ラインケア研修を実際に行う場合、以下の形態が考えられます。
- 集合研修
- オンライン研修
- eラーニング
- グループワーク
それぞれについて見ていきましょう。
集合研修
まず、リアルの集合研修という形態があります。座学形式の集合研修は、内容面でも受講者数の面でも知識を効率よく習得させるのに向いています。実施する側にとってやりやすいだけでなく、研修を受ける側からしても体系的に知識を学ぶことができるというメリットがあります。
ただし実施する側は場所の確保やスタッフの手配が、受講する側は会場まで移動する時間や費用が必要というデメリットがあります。
オンライン研修
インターネットを利用して、講義形式のオンライン研修という形態でラインケア研修を行うことも可能です。ライブの講義をリアルタイムで配信する方法と、録画した講義を配信する方法とがあります。場所にとらわれず実施できるのが最大のメリットです。また、講義形式ならオンラインでも実施側・受講側にとって体系的な解説・学習が可能です。
デメリットとしては、受講者の参加意識が下がってしまったり集中力が途切れてしまったりする場合がある、通信環境やツールが必要で通信環境の悪影響を受ける場合があることが挙げられます。
eラーニング
eラーニングによる研修という形態もあります。オンライン研修もeラーニングもインターネットを利用する方法ですが、配信の面で違いがあります。オンライン研修は日時を決めて配信する方法ですが、eラーニングは設定した期間中は受講者の都合のよい時間に視聴することができる方法です。
eラーニングは、場所や時間を選ばないのが最大のメリットです。ただしその反面、完全に個々人で受講することになり、講師に質問したりほかの受講生徒とやり取りしたりできないというデメリットがあります。
グループワーク
ラインケア研修はグループワークという形態でも行うことが可能です。グループワークは参加意識を保ちやすいという特徴があります。その帰結として、実際の作業やディスカッションを通じて納得感が得やすい、習得しやすいというメリットがあります。
ただしグループワークだけでは、知識を習得するのに非効率な面があります。そのためほかの形態と組み合わせるのが現実的です。たとえばケーススタディのディスカッションやロールプレイングなどをグループで行うことが考えられます。座学などと組み合わせることによって理解を深めることができ、より高い効果が得られると言えるでしょう。
「ラインケアは社員と会社を守る」
ラインケアの取り組みは、会社の安全配慮義務にかかわる重要事項です。ただし、その効果は義務を果たすだけにとどまらず、ハラスメント防止、また組織と人員のパフォーマンスを高め、成果を高める結果にもつながります。
当社では「組織力向上研修」をご用意しております。このセミナーでは管理者だけでなく、経営層の皆様に対しても、ラインケアの重要性、考え方を学び、管理者の支援的コミュニケーションのスキルを向上させます。ラインケア研修の一環として取り入れられるプログラムとなっておりますので、ぜひご活用ください。
組織力向上研修 詳細はこちらからこの記事の監修者
株式会社社員教育研究所 編集部
1967年に設立した老舗の社員研修会社。自社で研修施設も保有し、新入社員から経営者まで50年以上教育を行ってきた実績がある。30万以上の修了生を輩出している管理者養成基礎コースは2021年3月に1000期を迎え、今もなお愛され続けている。この他にも様々なお客様からのご要望にお応えできるよう、オンライン研修やカスタマイズ研修、英会話、子供の教育など様々な形で研修を展開している。