カスハラ対策義務化で企業が取り組むべき対策やマニュアル作成のポイント
2025年08月06日(水)
近年、社会問題として注目を集めている「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。悪質なクレームや不当な要求により、企業の従業員が精神的・身体的な負担を受けるケースが急増しています。
特に2025年4月から施行される東京都カスハラ防止条例や、労働施策総合推進法の改正など、法整備の動きも本格化しており、企業は対策を“義務”として求められる時代へと突入しました。
そこで本記事では、
- カスハラの定義と事例
- 法改正の要点と企業に課される義務
- 実務的なマニュアル整備のポイントや研修
といった内容を体系的にわかりやすく解説していきます。これからの時代、企業にとってカスハラ対策は「選択」ではなく「必須」です。この記事を通じて、カスハラに強い組織づくりの第一歩を踏み出しましょう。
- カスハラとは?
- カスハラの法規制・義務化について
- 【2025年4月施行】東京都カスハラ防止条例について
- 企業がカスハラ対策を怠った場合のリスクと対策するメリット
- カスハラ対策義務化で企業に求められる対策
- 社内の基本方針やルールの明確化と従業員への周知
- 通話録音機能の導入
- 顧客対応マニュアルの作成
- クレーム・カスハラ発生後の相談窓口・報告体制の構築
- 顧客への案内(掲示・通知)
- 管理職・従業員を対象とした研修の実施
- カスハラ対策マニュアル作成・運用の8つのポイント
- 厚生労働省のマニュアルを参考にする
- カスハラに対する企業としての基本方針を明確にする
- 自社の具体的な事例を収集・分析する
- 基本的な要素を押さえ、実務的な対応手順を明示する
- 業界別・顧客特性に応じた対策を考える<
- 組織体制と役割分担を明確にする
- 情報管理とセキュリティ対策も徹底する
- 再発防止のために継続的な改善・運用を行う
- カスハラに発展させないためのクレーム初期対応のポイント
- ハラスメント防止・カスハラ対策におすすめの研修
- カスハラ防止の適切な対策で働きやすいより職場環境へ
カスハラとは?
カスハラとは、サービスを提供する従業員に対して不当な要求や迷惑行為などを行う「カスタマーハラスメント」の略称です。
はじめに、カスハラに関する基本的な知識を押さえておきましょう。
カスハラ(カスタマーハラスメント)の定義
カスハラは、顧客や取引先から従業員に対して、過剰なクレーム・不当な要求、脅迫、暴言、長時間にわたる拘束、嫌がらせ行為などを指します。
厚生労働省のガイドラインでは、「顧客等からの著しい迷惑行為」と明確に定められており、単なる苦情や正当な要望とは区別されています。
カスハラは近年、接客やサービス業を中心に問題視されている社会問題であり、企業としては従業員を守るためにも、その定義を正しく理解することが第一歩です。従業員の安全や健康な職場環境を守る観点からも、企業はカスハラの防止・対応に取り組む必要があります。
カスハラの判断基準
カスハラかどうかを判断する基準としては、【顧客からの要求や言動に妥当性はあるか】、【要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲であるか】という観点で判断するのが一般的です。
より簡単に言えば、行為の「継続性」「悪質性」「業務への支障の程度」などが基準となります。
具体的には、暴力や暴言、人格を傷つける発言、不必要に長時間の謝罪や説明を強要する行為、土下座の強要、過剰な賠償の要求などが該当します。
また、繰り返ししつこく対応を求めたり、従業員の個人情報を特定して攻撃する行為もカスハラとされます。たとえ一見軽微に見える言動でも、繰り返されることで被害が蓄積され、深刻なハラスメントとなり得るのです。
一方で、正当な苦情や改善要望はカスハラには当たりません。このため、その言動や要求や態度が合理的な範囲を超えていないかを冷静に判断することが重要です。
従業員の精神的・身体的な安全を脅かす行為については、断固たる対応が求められるため、判断基準を社内で共有しておくことが欠かせません。
クレームとの違い
カスハラとクレームはどちらも顧客から従業員に対して生じる行為ですが、その性質や目的に明確な違いがあります。カスハラとは、顧客が正当な理由なく過剰な要求や暴言、威圧的な態度をとるなど、自分の欲求を満たすことや相手に精神的・身体的苦痛を与えることが目的です。
一方でクレームは、商品やサービスに対する不満や問題点を適切に伝えることであり、建設的なコミュニケーションの範囲内にとどまる点が特徴で、サービス向上のために重要な役割も持っています。
つまり、カスハラは「理不尽な要求や攻撃的な態度」であるのに対し、クレームは「サービス向上や問題解決を目指す正当な申し出」であると理解することができるでしょう。
【業種別】よくあるカスハラ事例
業種ごとにカスハラの傾向には違いがあります。例えば、小売業では返品不可の商品への無理な返品要求や店員への暴言、飲食業では長時間にわたるクレームや過度なサービス要求が多く見られます。
医療・介護現場では、職員への暴言や暴力、治療・介護内容への執拗なクレームが課題となっているのが現状です。そのほか、カスタマーサポート窓口での長時間拘束や脅しが多くみられます。
これらの事例からも分かるように、カスハラは業種を問わず多様な形で現れるため、現場ごとの具体的な対応策が求められているのです。
カスハラの法規制・義務化について
カスハラに対する企業側の対応が社会全体で問われる中で、カスハラに対する法的規制は飛躍的に強化されています。
2020年6月、厚生労働省は「優越的な関係を背景とした言動に関する指針」を発表。これはもともと男女雇用機会均等法などで規定されていたセクシュアルハラスメント等の対策を、さらに一般的なカスハラにも拡大した点が特徴的です。
さらに2022年2月には「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が公表され、企業が取り組むべき具体策と責任がより一層明確になりました。
加えて、労働施策総合推進法の改正により、相談窓口の設置や体制整備、従業員研修などの防止措置が法的な義務とされ、企業にとってカスハラ対策は急務と言えます。
カスハラ対策が義務化された背景
カスハラ対策が義務化された背景には、接客業やサービス業に従事する労働者の精神的負担や離職率の増加が深刻化したことがあります。これまで職場のハラスメント対策としてはパワハラやセクハラへの対応が重視されてきましたが、顧客からの理不尽なクレームや暴言などによる悪影響も広く認識されるようになりました。
また、働き方改革の流れのなかで、企業には従業員が安全に安心して働ける環境を整備する責任があることが法的にも明確化されました。このことから2022年以降、企業にはカスハラへの予防や事後対応の体制整備が義務付けられるようになったのです。
企業としては「やるかどうか」ではなく、「どう対応するか」が問われる時代となっています。
厚生労働省のカスハラ対策マニュアルの主な内容
厚生労働省が公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」は、大きく分けて「予防措置」「体制整備」「被害者の保護」の3本柱から構成されており、企業が
講ずべき実践的な対応策が示されています。
これにより、従業員を守る法的・社会的な根拠を持った対応が可能になるため、マニュアルの整備と運用は義務化の中核的な取り組みと言えるでしょう。
以下では、マニュアルの主な内容をさらに詳しく解説します。
カスハラの予防措置
カスハラの予防措置としては、「社内方針の明確化」と「従業員教育の実施」が中心となります。まずは企業が組織としての対応方針やルールを明確にしたうえで、カスハラに関する知識や対応手順を全社員に周知することが重要です。
また、従業員への定期的な教育や研修を通じて、被害予防に必要な知識やコミュニケーションスキルを身に付けさせることも大切です。加えて、カスハラのリスクが高まるような業務や場面について事前に洗い出し、問題が起こりにくい職場づくりも推奨されています。
体制整備
カスハラに対応するためには、企業内で責任者や相談窓口を設け、明確な対応フローを整えることが必要です。例えば、カスハラが発生した際の専門部署・管理職との連携フローや、内容の記録・保存手段、対応の指示系統をあらかじめ決めておくことで、現場での混乱や二次被害を最小限に抑えることができます。
また、カスハラに関する記録を適切に残すことで、再発防止のための分析材料にもなります。
さらに、相談しやすい環境を整えるため、匿名での通報や外部の専門家との連携も推奨されています。万が一重大な事件が起きた場合には、速やかに法的対応や公的機関への相談を行う体制も重要です。
従業員(被害者)の保護
被害を受けた従業員へのケアも企業の大きな責任です。カスハラの被害に遭った従業員に対しては、速やかかつ適切な精神的ケアとサポートが必要です。
また、「一人で対応させない」といった取り組みなども推奨されています。
さらに、被害者が不利益な扱いを受けないための配慮を徹底し、再発防止の観点から職場全体として問題を共有・再教育を行うことも重要です。このようなサポート体制を充実させることで、従業員の安心面の確保と職場環境の向上につながるでしょう。
【2025年4月施行】東京都カスハラ防止条例について
2025年4月より東京都で施行された「カスハラ防止条例」は、全国的にも先駆けとなる法制度です。
顧客などからの著しく不当な要求や迷惑行為(カスハラ)から従業員を守ることを目的とした新しい条例であり、刑法など従来の法規制では十分に対応できなかったカスタマーハラスメントへの対策を強化し、社会全体でのカスハラ根絶を目指しています。
これにより、東京都内の企業はカスハラを防止し、従業員の働く環境を守るための措置を講じる義務を負います。
この条例では、事業者が従業員の安全や健康を保持する責任を再認識し、カスハラへの予防・対応の方針策定や対処体制の整備など、事業者に求められる具体的な取組みが示されています。
カスハラ「禁止」条例ではなく、カスハラ「防止」条例であることから、カスハラを禁止するだけでなく、事業者等に対してカスハラ防止の義務を課しているのがこの条例の特徴です。つまり、単なる啓発活動では不十分というわけです。罰則規定は設けられていませんが、違反による社会的信用の低下は避けられません。
▼カスハラ防止条例におけるカスハラの定義
① 顧客等から就業者に対し、
② その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、
③ 就業環境を害するものをいう。
と規定。条例で定義するカスハラは上記①から③までの要素を全て満たすものとしています。
▼カスハラ防止条例の「3つの柱」
②カスハラ防止の基本理念と各主体(都、顧客等、就業者、事業者)の責務
③カスハラ防止に関する指針、都が実施する施策の推進、事業者による措置等の規定
カスハラ防止に関する指針(ガイドライン)の要約
東京都カスハラ防止条例の施行に合わせ、具体的な対応方針を明示した「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」が策定されています。
都や事業者、従業員、顧客それぞれが果たすべき責務や基本理念についても示されており、すべての主体がカスハラ防止に取り組むことが求められています。
さらに、事業者が対応体制や相談窓口を設けることや、具体的なカスハラの事例紹介、従業員への相談体制や研修の実施、カスハラ発生時の迅速な初期対応や事後ケア、再発防止策の策定など、実践的視点からも分かりやすく解説されています。
東京都の動きは今後全国への波及も予想され、他地域の企業も注視すべき内容です。
企業がカスハラ対策を怠った場合のリスクと対策するメリット
近年、企業においてカスハラ対策は必須事項と言っても過言ではありません。実際、カスハラ対策を怠ると企業は様々なリスクに直面します。
ここからは対策を怠った場合のリスクや対策のメリットについて以下の視点で見ていきましょう。
- 従業員の離職・メンタル不調
- 法的責任や損害賠償
- 企業イメージの低下、SNSやメディアによる炎上
従業員の離職・メンタル不調
カスハラ対策を怠った場合、最も深刻な影響が出るのは現場で働く従業員です。長時間にわたる悪質な顧客対応や、上司の理解を得られないまま放置されることで、メンタル不調に陥るケースが後を絶ちません。
その場に居合わせた周囲のスタッフにも強いストレスがかかり、結果として休職や退職につながり、現場の負担がさらに悪化するという悪循環が生まれます。
反対に、カスハラ対策を徹底することで、従業員が安心して働ける職場環境を維持することができれば、人材の定着率やエンゲージメント向上にも直結し、優秀な人材の流出を防ぐメリットが生まれます。
離職を防ぎ、組織力を高めるためにも、カスハラ対策は今や「コスト」ではなく「投資」と捉えるべきです。
法的責任や損害賠償
カスハラを放置した結果、企業が法的責任を問われるリスクも無視できません。従業員が精神疾患を発症し、労災認定を受けた場合、企業は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
近年では、適切な対応を怠ったことで企業側が損害賠償を命じられるケースも発生しています。また、顧客とのトラブルが裁判沙汰に発展すれば、金銭的損失に加えて社会的信用の失墜にもつながります。
これらを防ぐためにも、カスハラ対策に積極的に取り組むことで、企業としての法的リスクを解消し健全な労働環境を実現することが重要です。
企業イメージの低下、SNSやメディアによる炎上
現代のビジネスにおいて、企業イメージの管理は経営戦略そのものです。そのような中、カスハラ被害が公になり、企業が適切な対策を取らなかった場合、すぐに企業名がSNSで拡散され、炎上や批判を受けるリスクが高まります。
このような炎上事例は、企業イメージや取引先との信頼関係を大きく損ねる要因となります。加えて、「ブラック企業」「従業員を守らない」といったレッテルが貼られれば、採用難や顧客離れといった深刻な影響をもたらすでしょう。
反対に、カスハラ対策を積極的に実施し、その姿勢を社会に発信することは、企業価値や社内外の信頼向上、ブランドイメージの向上にも直結します。いまや企業ブランディングの一部としても、カスハラ対策は重要なのです。
カスハラ対策義務化で企業に求められる対策
カスハラ対策が企業に義務化される中、組織全体での包括的な対応が重要となっています。カスハラを未然に防ぎ、万が一発生した際にも従業員が適切に対処できる環境づくりが必要です。
以下で、実際に求められる具体的な対策について解説します。
- 社内の基本方針やルールの明確化と従業員への周知
- 通話録音機能の導入
- 顧客対応マニュアルの作成
- クレーム・カスハラ発生後の相談窓口・報告体制の構築
- 顧客への案内(掲示・通知)
- 管理職・従業員を対象とした研修の実施
1つずつ見ていきましょう。
社内の基本方針やルールの明確化と従業員への周知
まず取り組むべきは、カスハラに対する企業としての姿勢、明確な基本方針やルールを定めることが重要です。
「どのような行為がカスハラに該当するのか」「従業員を守るためにはどのような対応が必要か」といった基準を設け、全従業員に周知徹底することで、組織として一貫性のある対応が可能になります。社内掲示やイントラネット、研修資料などを活用し、常に方針・ルールが目に触れる工夫も効果的です。
通話録音機能の導入
顧客との電話対応時におけるカスハラ抑制策として、通話録音機能の導入は非常に有効です。録音によって従業員が一方的な被害に遭うリスクを低減できるだけでなく、万が一トラブルが発生した際にも証拠として活用できます。
また、録音している旨を顧客に事前に案内することで、問題行動の抑止にも繋がります。プライバシーへの配慮をした上で、適切な運用ルールを設けることも重要です。
顧客対応マニュアルの作成
カスハラ対応においては、状況ごとに適切な判断・対応が求められます。そのため、実践的な「顧客対応マニュアル」を整備することが不可欠です。
このマニュアルは、現場での判断をサポートし、従業員が安心して業務を遂行できるようにする土台となります。対応文言のテンプレートや言い回し集も有効で、実際の現場では瞬時の判断が求められることが多いため、具体性を持たせることが重要です。
マニュアルにはカスハラ行為への初期対応、エスカレーションの手順、報告時の留意点などを具体的に記載し、従業員が戸惑うことなく自信を持って行動できるよう工夫しましょう。
さらに、マニュアルは一度作って終わりではなく定期的に見直し、最新の事例や実務に合った内容への改定も忘れず行います。
クレーム・カスハラ発生後の相談窓口・報告体制の構築
カスハラやクレームが発生した際には、迅速かつ適切に対処するための相談窓口や報告体制を整える必要があります。従業員が一人で問題を抱え込まず、安心して相談・報告できる環境を用意することで、離職率の低減や心身の健康維持にもつながります。
窓口には、対応マニュアルに基づいて適切にヒアリングできるスキルを持った担当者を配置し、報告があった案件は管理職・人事部門・法務部門と連携し、対応履歴を記録・分析する仕組みがあると、組織としての再発防止につながるでしょう。
顧客への案内(掲示・通知)
カスハラを抑止するには、顧客にも企業の姿勢を明示することが大切です。その手段として有効なのが、店舗や事務所内にポスターを掲示したり、ホームページや請求書で通知を行ったりすることです。
小売や接客業では店頭への掲示、コールセンターでは通話開始時のアナウンスなど、業態に合わせた工夫が求められますが、これにより不当な言動を抑止する効果が期待され、従業員の安心感にもつながります。
また、具体的な禁止行為例を示すなど、顧客側にも協力を呼びかける姿勢を見せることで、従業員を守る取り組みとして社会的理解を深めることができるでしょう。
管理職・従業員を対象とした研修の実施
制度やマニュアルだけでは、現場の対応力を高めるには不十分です。実際にカスハラに直面した際、冷静かつ適切に対応できるよう継続的な研修を導入しましょう。
新人や中堅社員だけでなく、管理職層にもリーダーとしての判断力と対応力が求められるため、階層別にカスタマイズされた教育が効果的です。
研修では例えば、法律や社内ルールの理解はもちろん、ケーススタディや実際の対応ロールプレイ、メンタルヘルスケア、報告・連絡・相談(ホウレンソウ)の徹底方法などを組み合わせると有効です。
カスハラの具体的な事例や初動対応のポイント、報告フローなどを分かりやすく教える研修を行うことで、現場の不安を取り除くことができます。組織全体で知識とスキルを高めることで、より実効性のあるカスハラ対策が可能となるでしょう。
なお、弊社では業種や職種、現場に即した研修を行うカスタマイズ研修もご提案可能です。
また、ハラスメント防止研修や、現場の対応力を高めるカスハラ応対研修、クレーム応対研修などもご用意しております。自社の現状に即したケーススタディやロールプレイでより実践的な研修が可能です。
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カスハラ対策マニュアル作成・運用の8つのポイント
実効性のあるカスハラ対策マニュアルを作成し、日々の運用まで落とし込むためには、組織として検討すべきポイントが多岐にわたります。
ここではマニュアル作成・運用の際に押さえるべき8つの重要なポイントを解説していきます。
- 厚生労働省のマニュアルを参考にする
- カスハラに対する企業としての基本方針を明確にする
- 自社の具体的な事例を収集・分析する
- 基本的な要素を押さえ、実務的な対応手順を明示する
- 業界別・顧客特性に応じた対策を考える
- 組織体制と役割分担を明確にする
- 情報管理とセキュリティ対策も徹底する
- 再発防止のために継続的な改善・運用を行う
1つずつ見ていきましょう。
厚生労働省のマニュアルを参考にする
カスハラ対策を社内で整備する際には、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が信頼できるガイドラインになります。
企業規模や業種にかかわらず活用できる内容で構成されており、制度設計から運用まで幅広く網羅されています。特に初めて対策を検討する企業にとっては、何から着手すべきかの道しるべとなるでしょう。
マニュアル作成時はこうした信頼性の高い情報に基づき、自社の実情に即した内容へとカスタマイズしましょう。
カスハラに対する企業としての基本方針を明確にする
マニュアル作成において最初に定めるべきなのが「基本方針」です。カスハラに対して企業がどのような姿勢で臨むのか、基本方針を明文化しましょう。
たとえば「すべての従業員の心身の安全を守る」「社会的に許容されざる言動に対しては毅然と対応する」などの方針を打ち出すことで、組織としての一貫した態度を明示できます。
基本方針は全従業員に周知され、現場の安心感と迷ったときの指針となるため、冒頭に分かりやすく掲載しましょう。
自社の具体的な事例を収集・分析する
カスハラ対策マニュアルを現場で機能させるには、汎用的な情報だけでなく、自社で実際に起きた事例の収集・分析が欠かせません。過去のクレーム記録や事例、従業員からの聞き取り調査を通じて、どういった言動や場面で問題が発生したのかを洗い出すことで、より現実的な対応策が見えてきます。
業種や業態によってカスハラの傾向は異なるため、事例を整理・分類し、どのような対処が有効だったかまで分析しておくと、実践的なマニュアルづくりに役立つでしょう。
また、従業員が「これはうちでもよくある」と感じられる内容であることが、マニュアルを定着させる鍵になります。
基本的な要素を押さえ、実務的な対応手順を明示する
カスハラ対策マニュアルは、読みやすく、誰でもすぐに使える構成であることが大前提です。基本的には、「目的」「定義」「対象行為」「対応フロー」「記録・報告の方法」「相談体制」「教育・研修の方針」などの要素を含め、網羅性と実用性の両立を目指しましょう。
また、カスハラが疑われる場合の初動対応や顧客とのやり取りの仕方、必要な記録の取り方、エスカレーションルートなどを、フローチャートやチェックリスト形式で掲載するのがポイントです。
また、具体的な行動例やテンプレート、注意すべきフレーズ集なども加えることで、現場での再現性が高まります。紙やPDFだけでなく、社内ポータルサイト上でいつでも閲覧できる形にすることで、急な対応時にもすぐ参照できる仕組みが整います。
あいまいな表現ではなく、誰が読んでも同じ行動を取れるようなレベルで具体的に記載することが、実践力のあるマニュアル作成のポイント。また、対応後の報告方法や記録の書式も添付すると標準化につながります。
業界別・顧客特性に応じた対策を考える
一口にカスハラといっても、その内容や傾向は業界や顧客層によって大きく異なります。
そのため、厚生労働省のカスハラ対策マニュアルを一律に適用するのではなく、あくまで「土台」と考えましょう。マニュアルには業界や自社の業務特性にあわせたケーススタディや対応のポイントを加えるなど、カスタマイズすることがポイントです。
これにより実効性は格段に高まります。
顧客満足と従業員保護の両立を目指すうえで、業界特化型のアプローチは非常に有効です。
組織体制と役割分担を明確にする
カスハラ対応は現場任せでは機能しません。カスハラ対応を円滑に進めるには、組織内の体制と各担当者の役割を明確にし、マニュアルで一覧化しておくことが大切です。
対応フローの中で、「誰が」「どの段階で」「何をするか」を明確に定めておくことが重要です。たとえば、現場スタッフが初動対応を行い、一定基準を超える内容はスーパーバイザーや管理職にエスカレーション、その後、相談窓口や人事・法務部門が対応にあたるといった流れを明記します。
役割分担を全従業員が把握しておけば、判断や報告の遅れを防ぎ、組織的に迅速な対応が可能となります。組織全体で対応する体制を作ることが、従業員の心理的安全にもつながるでしょう。
情報管理とセキュリティ対策も徹底する
カスハラ対応の過程では、顧客の個人情報や社内のやり取りが含まれる記録を多く扱うことになります。そのため、記録の保管・共有方法については、情報漏洩リスクを最小限にするための対策が不可欠です。そのため、情報管理とセキュリティ対策についてもマニュアル内でしっかり定める必要があります。
クラウドツールの利用時にはアクセス権限の管理や暗号化を行い、紙ベースの記録も施錠保管を徹底します。また、社員にも情報取り扱いのルールを教育し、「うっかりミス」による漏洩を防ぐ体制が求められます。企業の信用を守るうえでも、情報セキュリティは極めて重要な要素です。
再発防止のために継続的な改善・運用を行う
マニュアルは作成して終わりではなく、運用を通じて継続的に改善することが重要です。現場からのフィードバックや新たな事例、法令や社会情勢の変化を反映するため、定期的な見直し体制を整えましょう。
改善の過程では必ず従業員への周知も行い、実効性の高いマニュアル運用を目指しましょう。こうしたサイクルの確立こそが、持続可能なカスハラ対策の基盤となります。マニュアルは“生きたツール”として扱い、企業文化として定着させていきましょう。
カスハラに発展させないためのクレーム初期対応のポイント
クレームを適切に初期対応することは、カスハラへの発展を未然に防ぐための重要なステップです。顧客からの苦情に迅速かつ冷静に対応し、社内で情報を共有することで、従業員と組織全体のリスクを最小限に抑えることができます。
ここでは、クレーム初期対応における具体的なポイントを順に解説します。
※なお、弊社ではクレーム応対で即活用できる応対用語や、解決法を分かり易いロールプレイングで実践スキルを身につけられる「クレーム応対研修」、「カスハラ応対研修」をご用意しております。
事実・事象を明確かつ限定的に謝罪する
クレーム対応の初動は、その後の展開を大きく左右します。特にカスハラに発展させないためには、感情的になった顧客に対して、企業側が過度に謝罪したり、曖昧な対応をしたりすることが火に油を注ぐ原因になることがあります。
お客様の不快な思いに対して謝罪を伝えることが重要ですが、曖昧な謝罪ではなく、実際に起きた事実や事象に焦点を絞った“限定的な謝罪”を心がけましょう。
例:「お待たせしてしまい、申し訳ございません」など
誤った謝罪や過度な謝罪を行うと、不要な責任を認めたと受け取られてしまい、カスハラに発展するリスクが高まります。
冷静に状況を整理し、必要な範囲で丁寧に謝罪する姿勢が信頼形成には不可欠です。
状況を正確に把握する
初期対応の段階では、クレーム内容や顧客の要望、発生した状況を正確に把握する必要があります。
ここで重要なのは、表面的な言動だけで判断せず、話の本質や背景に目を向けることです。そのためには、主観を排除し事実に基づいて情報を整理することが大切です。
また、記録を都度残すことで、後の対応や社内での情報共有もスムーズになります。
現場の監督者(管理職など)または相談窓口に共有する
クレームが発生した際は、独断で判断せず、必ず現場の監督者や管理職、または社内の相談窓口へ状況を速やかに共有しましょう。
組織的に対応することで、的確な判断や適切なフォローが可能となり、従業員の心理的負担の軽減にもつながります。
あらかじめ「このレベルの対応は管理職へ引き継ぐ」という基準を社内で定めておくと、スムーズなエスカレーションが可能になります。また、報告体制を整備することで、組織として再発防止や対応改善にもつなげることができます。
カスハラが疑われる場合は複数名での対応も検討を
顧客からの言動が威圧的、攻撃的、暴力的である場合など、カスハラが疑われる状況となった場合や従業員が一人で応対することに不安を感じる場合は、複数名での対応を検討しましょう。
これにより、不当な要求や人格を傷つける発言への直接的な被害を防ぎやすくなり、証拠の確保や今後の対応においても客観性を持たせやすくなります。また、複数人による対応は、相手への抑止効果も期待できるため、従業員を守るための有効な手段です。
ハラスメント防止・カスハラ対策におすすめの研修
ここからは、社員教育研究所でご用意しているハラスメントやカスハラ防止対策として有効な研修をご紹介します。
ハラスメント防止研修
ハラスメント防止研修は、パワハラ・セクハラなどの多様なハラスメントの定義や実態を学び、対話やロールプレイを通じてその原因を明らかにし、モラル向上を図る通学型の2日間研修です。
ストロークやアサーションなどの手法により、互いを尊重し合う関係構築を促進。さらに、カスハラへの対応やクレーム処理、社内での適切なエスカレーションの方法も習得し、心理的安全性と業務推進力の向上を目指します。
離職防止や組織の健全化に貢献する実践的なプログラムです。
カスハラ応対研修
カスハラに対して適切かつ実践的な対応力を身につけることを目的とした、1日完結型の通学研修です。
顧客心理の理解を深めることで、正当なクレームと悪質なカスハラの違いを見極め、こじれる原因を未然に防ぐ力を養います。現場でありがちな顧客要求に対応する方法や、冷静かつ誠実な言葉遣いをロールプレイ形式で実践的に学び、応対スキルを強化します。
さらに、クレーム対応時に重要となる社内での適切なエスカレーションの手法を習得し、上司や関係部署との連携を円滑に進める判断力と伝達力の向上にも期待できます。
社員の心理的安全性を守りつつ、優良顧客の信頼を維持するための組織的対応力の向上も図れる、実践的かつ効果的な研修です。
カスハラ防止の適切な対策で働きやすいより職場環境へ
カスハラ対策の義務化により、企業が求められる取り組みの水準はこれまで以上に高くなっていますが、それは同時に、企業にとって従業員を守る絶好のチャンスとも言えます。
理不尽な要求に毅然と対応する一方で、真摯なクレームには誠意を持って応じるというバランスのとれた文化が、企業の信頼を築くのです。
さらに、カスハラ対策を通じて生まれた「従業員を守る企業」というブランドイメージは、採用や定着率の向上にも貢献します。人材不足が深刻化する中で、働きやすい環境を整えることは、優秀な人材の確保にも直結します。
カスハラ予防策として、本記事で紹介したマニュアル作成や迅速な相談体制の整備などを実施することはもちろん、定期的な研修を通して現場の一人ひとりの意識向上も不可欠です。社員の研修をお考えであれば、ぜひ弊社「社員教育研究所」にご相談ください。
この記事の監修者

株式会社社員教育研究所 編集部
1967年に設立した老舗の社員研修会社。自社で研修施設も保有し、新入社員から経営者まで50年以上教育を行ってきた実績がある。30万以上の修了生を輩出している管理者養成基礎コースは2021年3月に1000期を迎え、今もなお愛され続けている。この他にも様々なお客様からのご要望にお応えできるよう、オンライン研修やカスタマイズ研修、英会話、子供の教育など様々な形で研修を展開している。