管理職が部下育成で注意すべきことは?指導力を高めるポイント
2021年12月24日(金)
2023年11月29日(水)
企業にとって、新入社員や若手社員などの人材育成は、常に求められる大きな課題です。社員の成長を促すためには、育成・指導・指示が必要です。順に長期的・中期的・短期的なものであり、その1つ指導力とは将来的な成長に向けて自律的に行動できるよう導く力だと言えます。しかし、部下指導を行うべき管理者が指導力不足となると人材が育たず、組織力の低下を招く可能性も。
そこで今回は、管理職が陥りやすい部下教育における課題や注意点、効果的に部下育成のための指導力を高めるポイントなどについて解説します。合わせて、指導力を鍛えるためのおすすめの管理職研修などもご紹介しておりますので、導入検討も含め、ぜひご覧ください。
具体的には、指導力を高めるには次の事項を理解することが大切です。
- 部下育成において陥りやすい課題は、部下に任せたり自発的に考えさせたりしないこと
- コミュニケーションを取りながら、相手に合わせた指導を行うことが大切
- 基本的には、教えるよりもサポートする/必要な時だけ手を貸すスタンスで接する
- 適切な評価とフィードバックの仕組みづくりも必要
- 意図・目的に合わせて相手への伝え方を工夫することもポイントとなる
それでは、より具体的に見ていきます。
管理職が陥りやすい部下育成の課題
まず初めに、管理職が陥りやすい部下育成の課題についてまとめます。次の3点が挙げられます。
- 部下に自分の考えを押しつけてしまう
- 部下に仕事を任せない
- 部下に最適な方法で指導していない
1つずつ順に見ていきましょう。
部下に自分の考えを押しつけてしまう
“決めつけ”や“押しつけ”は、部下との信頼関係を壊す可能性があるため、自分の態度の現状を振り返る必要があります。
たとえば、部下の教育に当たる場面。上司が自らの正しさを信じて疑わず、上から目線で指示や指導を行っているケースは少なくありません。部下としては、反論や伝えたい理由があってもなかなか口に出せない状況です。もしも上司の考え方に誤りがあったなら、部下からの信頼を失う結果となるでしょう。
なお、部下が意見できなくなる原因は、上司の態度によるところが大きいとも言えます。相手の話を途中で遮る、話しかけにくい雰囲気を出すなど。普段のコミュニケーションでこうした状況が続いていれば、部下も「困ったことがあるから相談をしよう」とはなりません。そして、誤った指導を受けた場合にも、上司の誤りに意見するのではなく、黙って受け流すという非建設的な態度になってしまいます。
強力な指導というと、牽引力や統率力でメンバーを導くイメージがあるかもしれません。しかし実際には部下の参加意識・当事者意識を高めることが大切です。
部下に仕事を任せない
管理職がマネジメントに専念できていないことが原因で、部下の成長が遅れている可能性を考えてみましょう。
たとえば、まだ新しい部署などの場合、マネージャーがプレイヤーを兼任しているケースも少なくありません。もしくは、人事異動直後で上司がプレイヤーからマネージャーへ切り替わる途中というケースもあるでしょう。その人のスキル次第ではありますが、プレイングマネージャーには優れたマネジメント力とバランス感覚が求められ、容易にこなせるものではありません。結果として、マネジメントに費やすリソースが不足しがちになります。
マネジメントの役割が疎かになると、部下の成長が遅くなるのは当然です。とくに上司が自ら現場で腕を振るい続けていると、部下はサポート役に徹することになります。簡単な仕事ばかりを任されていると「自分は期待されていないんだ」とモチベーションが下がり、悩むこともあるでしょう。こうした上司の態度は育成力不足の現れであり、実は部下が伸びる機会を奪っているのだと意識すべきです。
部下に最適な方法で指導していない
マニュアルに沿った画一的な指導は、部下それぞれに向き合っていないのと同じです。
人にはそれぞれ適した教育・指導方法があります。しかし、上司が経験不足であったり多忙であったりすると、部下の能力や価値観、仕事の習熟度などを把握しきれない可能性もあるでしょう。仕方ないことではありますが、この場合はマニュアルライクな指導を行うしか選択肢はありません。
ただし、その指導は非効率的な育成方法であることを知るべきです。均一な指導では成長を促しにくいため、どこかのタイミングで手法を切り替える必要性があると考えましょう。
部下の指導で必要な心がけ
部下の指導においてリーダーが心がけるべきは、部下との良質なコミュニケーションです。良質なコミュニケーションを実現させるために、具体的には次の3点をとくに心がける必要があります。
- 感情的にならない
- 相手の話を聞く
- 自分の考えを押し付けない
1つずつ見ていきましょう。
感情的にならない
部下の指導において、感情的にならないことは非常に重要です。自分の話していることを部下がなかなか理解できないときや部下がミスしたときなど、つい感情的になりがちです。とくに相手が新卒や新人だと、ごく基本的な事項・項目も理解できずイライラすることもあるでしょう。しかし自分が若手だったころを考えてみた場合、上司に感情をぶつけられたときに前向きになれたでしょうか?感情的な対応は信頼関係を壊す可能性大です。
理不尽さに耐えてこそ成長がある、と考えるかもしれません。しかしそう思うなら、自分が理不尽なことをしていると自覚していることになります。正すべきは自分です。理不尽なことなしに育成できるなら、その方がよほど効率的ですし部下とも良い関係を保つことができます。
相手の話を聞く
部下の指導で重要なポイントとして、相手の話を聞くことも挙げられます。部下の話を聞くということは相手を尊重しようという姿勢の表れでもあります。部下の話を聞くことは、相手を理解したいというメッセージを送るのと同じことです。
とくに上司と部下や先輩と後輩という上下関係においては、上の者は自分が話したいことを話して下の者の話を聞かない傾向があります。上司・先輩は意識して部下や後輩の話に耳を傾ける必要があります。
自分の考えを押し付けない
部下の指導においては、自分の考えを押し付けないことも大切です。指導の際は、部下の意見や悩みを理解し、問題解決をサポートする姿勢が求められます。解決策を教えるのではなく、解決策を見つけさせることが部下の成長につながります。
このように「教える」「伝える」よりも、「サポートする」「必要な時だけ手を貸す」というぐらいの姿勢が適切だと言えるでしょう。成功への道筋を示しつつ、部下の能力開発や自主性を重視しましょう。
管理職が部下育成のための指導力を高めるポイント
上記の課題を解消するために、管理職が部下育成のための指導力を高めるポイントとしては次の3点が挙げられます。
- 部下とのコミュニケーションを充実させる
- 自分自身も成長を目指して努力を怠らない
- 部下のタイプを見極めて指導に活かす
1つずつ見ていきましょう。
部下とのコミュニケーションを充実させる
部下教育では、定期的なフィードバックからはじめるのが定番です。ただし、この際にはポイントを踏まえた関わり方、コミュニケーションが必要なことも覚えておきましょう。
部下の育成を促すという目的で、1on1等の面談機会を設けている方も多いでしょう。この際、上司から部下へ一方的にフィードバックを伝える形にならないよう注意が必要です。大切なのは一方通行ではなく双方向。お互いに話し合うことが、部下への理解を深めたり、信頼関係を構築したりするのに有効です。
何でも話し合える関係性が築ければ、普段の業務にも効果が現れるはずです。打ち明けにくいことでも相談できる間柄になれば、しっかりと部下の成長をサポートできるでしょう。
自分自身も成長を目指して努力を怠らない
部下教育では、上司自身も継続的な努力によってスキルを身につける必要があります。自己啓発に取り組んだり、マネジメント研修などの管理職向け研修プログラムを受けたり。自ら学ぶための環境を整える重要性について目を向けましょう。以下では、上司が身につけるべきスキルの代表例をご紹介します。
傾聴スキル
相手の話に耳を傾け、内容をしっかりと聞ける能力が「傾聴スキル」です。もともとは心理学のカウンセリングで使われていました。相手に寄り添い、共感し、聞き役に徹するというのは意外に難しいものです。とくに話す相手が部下だと、つい注意やアドバイスをしたくなるもの。そこをぐっと抑え、表情や声のトーンといった細かな部分にまで注意を払えるようになるのが大切です。
コミュニケーション能力
上司と部下のコミュニケーション活性化は大きな効果につながります。部下の成長はもちろん、部署自体の生産性向上や、会社全体の社員定着率などにも関わる部分です。なお、部下からコミュニケーションを図るよりも、上司から話しかけるほうが取っかかりとしてはスムーズ。そのため、コミュニケーション能力の向上も上司が常に行うべき努力のひとつに挙げられます。
コーチングスキル
相手の目標達成をサポートするのに役立つコーチング。元々はスポーツの分野で用いられてきた手法で、選手の潜在能力向上を目的として活用されてきました。なお、コーチングスキルは「傾聴」「承認」「質問」という3つの能力から構成されています。端的に言うなら、「相手の言うことに耳を傾け、成果やプロセスを認め、思考を広げる質問を投げかける」ことが、コーチングの基本になります。
部下のタイプを見極めて指導に活かす
「モチベーションは高いが、能力が低い部下」と「能力は高いが、モチベーションが低い部下」では、指導のやり方はまるで違います。それぞれの長所・短所に合わせた指導の手法や種類を選んでいくことが、部下の成長には必要です。
たとえば目標達成をモチベーションの源泉とするようなタイプであれば、簡単な仕事だけでなく、ある程度難しい仕事も振っていきましょう。その上で、正当な評価を与えることが今後の仕事のやる気につながります。
一方、自分の興味がモチベーションに直結するタイプは、相対評価に関心が薄いという特徴が多い傾向にあります。そのため、好きなことをじっくり掘り下げていけるような環境を整えてあげることが大切です。
部下のタイプ別指導法と成長へのアプローチ
指導は、部下のタイプによってアプローチを変えた方がより効果的です。ここでは、次の3つのタイプに分けて具体的なアプローチについて解説します。
- 自発的な部下
- やる気がない部下
- 未経験者や新入社員
順に見ていきましょう。
自発的な部下への適切な指導と研修
自発的な部下には、部下の自発性に任せて要所となるポイントのみ指導するスタイルが適しています。とくに能力が高い場合は成果の確認を中心にして、あまり事細かに指導することは避けましょう。ガッチリ管理するような方法は本人の意欲を削いでしまいます。
実力が追いついていない場合は、適切な目標設定や課題解決のためのサポートを行いましょう。それにより実力と意欲のバランスが整ってきます。あえてちょっと難しい仕事にチャレンジさせるのも効果的です。もちろん見守りと、必要な時のサポートは行います。
やる気がない部下へのモチベーション向上策
やる気のない部下は、まずモチベーション向上が課題となります。部下とのコミュニケーションを大切にし、相手を理解して信頼関係を築きましょう。次に、明確な目標設定と適切な評価・フィードバックで部下の成長をサポートします。
また自信がないせいで意欲を持てていない場合には、達成感や充実感を感じられる状況を創り出すことで部下のやる気を引き出すことが可能です。難しくない仕事から始めて成功体験を積ませましょう。
未経験者や新入社員へのOJT(On the job training)活用法
未経験者や新入社員には、OJTが効果的な育成方法です。指導する側と学ぶ側が親密な関係を築きやすい点、実践的なことを学べる点が短期間で成長させるのに適しています。ただし理論的な理解がしにくいので、座学などと組み合わせて行いましょう。
ただし近い関係になるがゆえに、高圧的な態度は絶対にいけません。また指導する側があまりに忙しいと学ぶ側を放置してしまうことになり逆効果です。担当者の業務量を調節しましょう。
効果的な評価方法とフィードバックの実践
効果的な指導のためには、指導のあとに適切な対応を行うことが重要です。具体的には評価とフィードバックが挙げられます。ここでは次の3点について解説します。
- 目標達成度とスキル習得の明確な評価基準
- 同僚や上司との評価結果の共有とフィードバック
- 成功体験や改善点の定期的な確認と指導計画の見直し
1つずつ見ていきましょう。
目標達成度とスキル習得の明確な評価基準
まず、期待される成果を明確に認識し共有することで、部下のモチベーションを高めることができます。なお目標は、本人とともに経験やスキルに基づいて設定しましょう。自分の目標設定に自分が関われないということは、モチベーションを下げる原因になります。
さらに、目標の達成度を評価するための評価項目をチェックリストにしたり基準を数値化したりしておきます。決めた基準も公表することが必要です。本人も自己評価でき、自分の強みや弱みを認識して自己研鑽できるからです。そのうえで基準にのっとった公平な評価を心がけます。
上司との評価結果の共有とフィードバック
適切な評価を行ったら、それを上司と本人とで共有してフィードバックを行います。
結果を伝えるだけでは不十分で、なぜそのように評価されたのか本人がわかるようにすることが大切です。いくら客観的な評価をしていても、過程が見えないと密室で勝手に決められたと受け取られてしまいます。
さらにその評価を、次にどうつなげていくかこそが育成と指導のカギとなる部分です。具体的で改善可能な事項を指摘し、相手のモチベーションにつなげましょう。
成功体験や改善点の定期的な確認と指導計画の見直し
定期的に部下の成功体験や改善点を確認し、指導計画を見直すことが重要です。このときよかったことは褒め、改善点は客観的かつ前向きに伝えましょう。また部下の成長の度合いによっては、指導計画を変更していくことも現実的には必要です。もともとの目標が高すぎる/低すぎるとわかった時点で、がんばれば達成できるレベルに変更しましょう。
この方法を活用することで、経験から学習して類似の状況で自律的に適切な行動が取れるようになります。さらには部下のスキル向上やマネジメント能力を育成し、組織全体の成果につなげることができます。
部下が育つ言い方の工夫例
指導の基本的な姿勢や仕組みについて述べてきましたが、指導の現場での具体的な言い方・伝え方を知っておくことも有益です。次に、言葉の使い方はどのような点に気を付けたらいいかや具体的な言い回しについてまとめます。指導の場面で頻繁に起こる次の4つのケースごとに、言い方をまとめます。
- 改善させたいとき
- 理解させたいとき
- 習得させたいとき
- 叱るとき
1つずつ見ていきましょう。
改善させたいときは原因に目を向けさせる
ミスをしてしまったなど、改善が必要な状況が生じた際には原因に目を向けさせましょう。「なぜミスしたんだ」「なぜこれができないんだ」という言い方は、理由を聞いているようでいて実際には「ミスするな」「できるようになれ」という攻撃・命令です。しかも具体的にどのようにしたらその命令を実行できるのかが示されていません。
攻撃・命令ではなく、「なぜミスしたのか/これができないのか考えてみよう」とするだけで、言われた側は理由を考え始めます。自分で答えを見つければ次につながりますし、その答えがズレているようであればアドバイスすることもできます。
理解させたいときは理由をセットで説明する
部下の指導において、理解を深めさせるためには、するべきことと理由をともに説明することが重要です。人間の成長において幼いころの吸収期は理由がわからなくてもどんどん覚えたり身につけたりしていくことができますが、一定の年齢に達してからは理由がわからないことは身につかなくなります。
「こういうやり方をするのは~だから」「こちらの方法で行うことで~できる」など、やり方は理由や根拠・目的とセットで説明するようにしましょう。
習得させたいときは反復させる
部下の育成において、スキルや業務を習得させたい場合は繰り返しの行動が成長につながります。動作を反復させて身体に染みこませることはもちろんなのですが、言葉を反復するだけでも効果があります。
説明や指導をしたら、今度は部下にそれがどういうことか説明させます。ぜひ自分の言葉で言い換えさせましょう。それを聞いて理解しているかどうか判断できます。部下も自分で言葉にすることで理解も深まり忘れにくくなります。
叱るときは事実に対して叱る
部下の指導で重要なポイントは、事実に基づいて叱ることです。事実をもとにすることによって、人格や能力・価値観を否定するような表現を避けることにつながります。感情的にならないための具体的な工夫でもあります。
「そのやり方で作業したのはマニュアルと違っていて危険だ」などのように、事実とそれがいけない理由をセットにして伝えましょう。この方法により個人攻撃と感じさせずに済み、信頼関係を壊すことなく部下の成長を支援できます。
部下育成のための指導力をアップさせる管理職向け研修
指導力を身につけるには、講演や研修も有効な選択肢です。私ども社員教育研究所では、部長・課長や店長などの管理職の方々や中堅社員の方々向けに、指導力をアップさせる研修をご用意しています。以下、いくつかご紹介します。
指導力開発訓練
管理者としてのリーダーシップを磨き、部下の指導とモチベーション向上につなげるためのカリキュラムです。コーチング研修を含め、部下との良好な人間関係構築を目指した「人間学」マスターを目指し、9日間の研修を実施。指針となる指導力10則のほか、仕事の与え方や注意の仕方、褒め方のコツなど、具体的な指導方法も身につけていきます。
「指導力開発訓練」の詳細はこちらからハイブリッド・リーダー研修
カリスマ型とファシリテーター型、それぞれのスキルを持ち合わせたハイブリッド・リーダー育成のためのプログラムです。知識だけでなく、実践を踏まえた訓練型の研修を2泊3日で実施。リーダーに必要なものを習得します。自主性・主体性を持ち、率先して責任ある行動を取り、職場において部下への積極的成長支援ができるようなリーダーシップを学びます。
「ハイブリッド・リーダー研修」の詳細はこちらからミドルマネジメントセミナーMMS ヒューマンスキルコース
部下育成指導力に加え、CS向上関係力の両方を身につけるためのプログラムです。部下のやる気を出す方法や、そのためのスキル。そして、顧客満足のために必要となる接客の基本知識や態度、クレーム対応などを職場の事例を基に複合的に学びます。
「MMS ヒューマンスキルコース」の詳細はこちらから「上司としての役割を見つめ直すことが部下の成長につながる」
人それぞれに、仕事のスキルには差があります。上司としては、そのポテンシャルのみで人事評価を下しがちです。しかし実際には、上司の指導力によって、部下の成長度合いが鈍化しているケースも決して少なくはありません。部下を持つ管理者の方は、なぜ自分の部署、チームのメンバーが育っていかないのかを真剣に考え、ご自身のマネジメント等に問題がないかを振り返ることが大切です。その上で、管理者としての役割を今一度見つめ直すことが、部下はもちろん、ご自身の成長にもつながるでしょう。
この記事の監修者
株式会社社員教育研究所 編集部
1967年に設立した老舗の社員研修会社。自社で研修施設も保有し、新入社員から経営者まで50年以上教育を行ってきた実績がある。30万以上の修了生を輩出している管理者養成基礎コースは2021年3月に1000期を迎え、今もなお愛され続けている。この他にも様々なお客様からのご要望にお応えできるよう、オンライン研修やカスタマイズ研修、英会話、子供の教育など様々な形で研修を展開している。